焼き芋のGI値は高い?低い?

秋から冬にかけて、あの甘くてホクホクの焼き芋の香りがすると、つい食べたくなりますよね。

自然な甘さで、おやつや軽食にぴったりです。

でも、こんなに甘いと「太りやすいんじゃないか」「血糖値が急に上がって体に悪いのでは?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。

実は、さつまいもは食べ方次第で、血糖値への影響が大きく変わる食材です。

一般的に「さつまいもは低GI」と言われることもありますが、それは必ずしも「焼き芋」には当てはまりません。

この記事では、栄養学の専門家が、焼き芋のGI値に関する「本当のところ」を科学的根拠に基づいて徹底的に解説します。

なぜGI値が変わるのか、そして血糖値を気にせず、おいしく健康的に焼き芋を楽しむための具体的な方法まで、あなたの疑問にすべてお答えします。

焼き芋のGI値は「高い」

多くの方が抱く「さつまいも=ヘルシー」というイメージとは裏腹に、結論から言うと、アツアツの焼きたての焼き芋のGI値は、実は「高い」のです。

学術的な研究報告によると、その数値は80~94の範囲にもなり、これは明確に「高GI食品」に分類されます。

GI値とは

ここで、GI(グリセミック・インデックス)値について簡単におさらいしましょう。

GI値とは、食品を食べた後の血糖値の上昇スピードを数値化した指標です。

最も吸収が速いブドウ糖を100として、それぞれの食品がどれくらい血糖値を上げやすいかを示しています。

一般的に、GI値は以下のように分類されます。

  • 高GI食品:70以上
  • 中GI食品:56~69
  • 低GI食品:55以下

焼き芋のGI値が80以上ということは、血糖値を急激に上昇させやすい食品であるということを意味します。

なぜ高GI食品は注意が必要なの?

高GI食品を摂取すると、血液中の糖の濃度(血糖値)が急上昇します。

すると、私たちの体は血糖値を下げるために「インスリン」というホルモンをすい臓から大量に分泌します。

このインスリンには、血液中の糖をエネルギーとして細胞に取り込ませる重要な働きがありますが、同時に余った糖を脂肪に変えて体に溜め込むという働きも持っています。

そのため、インスリンが過剰に分泌されると、肥満につながりやすくなるのです。

さらに、急上昇した血糖値はインスリンの働きで急降下しやすく、これが眠気や強い空腹感を引き起こし、間食や食べ過ぎの原因となることもあります。

他の主食と比べても高い焼き芋のGI値

焼き芋のGI値がどれほど高いかを実感するために、他の身近な主食と比較してみましょう。

  • 食パン:GI値 約90~95
  • 白米:GI値 約84~88
  • 焼き芋:GI値 約80~94

このように、焼き芋は私たちが普段から血糖値を上げやすいと認識している食パンや白米と比べても、同等か、場合によってはそれ以上にGI値が高い食品なのです。

多くの方が持つ「さつまいもは低GI」という知識と、この科学的な事実との間には、大きなギャップが存在します。

なぜ調理法で変わる?さつまいものGI値が化ける科学

「さつまいも自体のGI値は55で低GI食品だと聞いたのに、なぜ焼き芋になると高くなるの?」と疑問に思いますよね。

その答えは、調理による「デンプンの変化」に隠されています。

さつまいもは調理法によって、まるで別の食品のようにGI値が大きく変動するのです。

甘さの秘密とGI値上昇のメカニズム

さつまいものGI値が劇的に変化する理由は、主に2つのプロセスによるものです。

デンプンの「糊化(α化)」

生のさつまいもに含まれるデンプン(βデンプン)は、人間が消化しにくい構造をしています。

しかし、加熱されると水分を吸って膨らみ、消化しやすい「αデンプン」に変化します。

これを「糊化(こか)」と呼びます。

消化しやすくなるということは、それだけ速く糖として吸収されることを意味します。

(※糊化に関しては『さつまいもの甘さの秘密|「熟成」「糊化」「糖化」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

糖化酵素「β-アミラーゼ」の働き

さつまいもには、「β-アミラーゼ」というデンプンを麦芽糖(マルトース)という甘い糖に変える酵素が含まれています。

この酵素は、60~70℃の温度帯で最も活発に働きます。

焼き芋のように、石焼きやオーブンでじっくりと時間をかけて加熱する調理法は、この酵素が長時間働くための最適な環境を作り出します。

その結果、デンプンがどんどん糖に分解され、あの蜜のような甘さが生まれるのです。

つまり、焼き芋の美味しさの源である「甘さ」は、デンプンが消化吸収されやすい糖に変化した証拠であり、それがそのままGI値の高さに直結しているのです。

(※βアミラーゼに関しましては『さつまいもの甘さの秘密「β-アミラーゼ」を分かりやすく解説します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

調理法でこんなに違う!GI値比較表

さつまいものGI値が調理法によってどれだけ変わるのか、学術研究に基づいた目安を一覧表にまとめました。

血糖値が気になる方は、どの調理法を選ぶべきか一目瞭然です。

表1: さつまいもの調理法別GI値比較

調理法GI値の目安分類特徴・理由
焼く80 - 94高GI長時間じっくり加熱することでデンプンの糖化が最大限に進み、GI値が最も高くなります。
揚げる約76高GI油分が胃からの排出を遅らせるため焼き芋よりは少し低いですが、依然として高GIに分類されます。
電子レンジ65 - 70中~高GI短時間での加熱のため、焼き芋ほど糖化は進みませんが、蒸すよりは高くなる傾向があります。
蒸す60 - 70中GI水分が多い環境で加熱するため、焼き芋ほどデンプンの糖化が進まず、GI値は中程度に収まります。
茹でる40 - 50低GI最もGI値を低く抑えられる調理法です。茹で時間が長いほど、GI値はさらに低くなる傾向があります。
約30低GIデンプンが消化されにくいβデンプンのままであるため、GI値は非常に低いです。

※GI値は品種・切り方・時間で変わりますので表の数値は目安です。

この表からわかるように、血糖コントロールを最優先するなら「茹でる」、手軽さも考慮するなら「蒸す」のがおすすめです。

そして、アツアツの「焼き芋」は、GI値の観点からは最も注意が必要な食べ方と言えます。

焼き芋のGI値を下げる裏ワザ!「冷やす」だけで生まれる魔法の成分

「やっぱり、あの甘い焼き芋が食べたい…」という方もご安心ください。

一度焼いて高GIになってしまった焼き芋でも、そのGI値を下げる簡単な裏ワザがあります。

それは、ズバリ「冷やす」ことです。

魔法の成分「レジスタントスターチ」とは?

焼き芋を冷やすと、デンプンの一部が「レジスタントスターチ」という特別な成分に変化します。

レジスタントスターチとは、その名の通り「消化されにくい(Resistant)デンプン(Starch)」のこと。

一度加熱されて消化しやすくなったαデンプンが、冷える過程で再び消化されにくい構造に変化したものです。

この成分は、消化酵素の影響を受けずに小腸を通り抜け、大腸まで届くため、食物繊維と非常によく似た働きをします。

(※レジスタントスターチに関しましては『冷凍焼き芋で注目の「レジスタントスターチ」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

冷やすことで得られる3つの健康効果

レジスタントスターチが増える「冷やし焼き芋」には、主に3つの嬉しい健康効果が期待できます。

  1. 血糖値の上昇を穏やかにするレジスタントスターチは消化・吸収が非常にゆっくりなため、食後の血糖値の急上昇を劇的に抑えてくれます。これが、冷やし焼き芋のGI値が低くなる最大の理由です。
  2. 腸内環境を整える(腸活効果)大腸まで届いたレジスタントスターチは、ビフィズス菌などの善玉菌のエサになります。善玉菌はこれを食べて「短鎖脂肪酸」という有益な物質を作り出し、腸内を悪玉菌が繁殖しにくい弱酸性の環境に整えてくれます。まさにお腹の中から健康をサポートしてくれるのです。
  3. 満腹感が持続し、食べ過ぎを防ぐ消化に時間がかかるため、満腹感が長く続きます。また、朝食に冷やし焼き芋を食べると、その次の食事(昼食)後の血糖値上昇まで穏やかにしてくれる「セカンドミール効果」という現象も報告されています。

「冷やし焼き芋」の実践方法

作り方はとても簡単です。

焼きたての芋の粗熱が取れたら、乾燥しないようにラップでぴったりと包み、冷蔵庫で数時間冷やすだけ。

レジスタントスターチは特に4℃以下の低温で生成されやすいと言われているため、常温で冷ますよりも冷蔵庫でしっかりと冷やすのが効果的です。

血糖値対策として始めた冷やし焼き芋が、実はお腹の調子も整えてくれる優れた「腸活フード」に変わるのです。

ぜひ試してみてください。

(※焼き芋の冷凍に関しましては『焼き芋を「上手に冷凍する方法」をわかりやすくご説明します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

GI値だけじゃない!より実践的な指標「GL値」で焼き芋を評価する

ここまでGI値に注目してきましたが、実はGI値だけを見ていると、食品が血糖値に与える影響の本質を見誤ることがあります。

そこで登場するのが、より現実に即した指標「GL値(グリセミックロード)」です。

GL値とは?GI値との違い

GI値は、炭水化物の「質」を示し、血糖値の上がりやすさのスピードを評価する指標です。

一方、GL値は、その食品を「一人前食べたときに、実際にどれだけの量の糖質が体に入り、血糖値にどれくらいの負荷(Load)をかけるか」を示す、「質」と「量」の両方を考慮した指標です。

計算式は以下の通りです。

GL値=(GI値×1食あたりの炭水化物量(g))÷100

GL値もGI値と同様に、数値によって分類されます。

  • 高GL:20以上
  • 中GL:11~19
  • 低GL:10以下

焼き芋のGL値を計算してみよう

では、実際に焼き芋のGL値を計算してみましょう。

中くらいの焼き芋1本(約200g)の可食部を150gとします。

  • 焼き芋100gあたりの糖質量:約35.5g 16
  • 150gあたりの糖質量:35.5g×1.5=53.3g
  • 焼き芋のGI値:85と仮定
  • GL値 = (85×53.3)÷100≈45.3

計算の結果、焼き芋のGL値は約45となり、これは紛れもない「高GL」です。

つまり、焼き芋は血糖値を上げるスピードが速い(高GI)だけでなく、一度に食べる量あたりの糖質量も多いため、血糖値への負荷が非常に大きい(高GL)食品であると言えます。

GI値とGL値で見る食品の真実

GL値の考え方を理解すると、GI値だけではわからなかった食品の姿が見えてきます。

表2: GI値とGL値で見る食品の評価

食品GI値1食あたりの量炭水化物量(g)GL値 (計算値)評価
焼き芋85 (高)150g (中1本)53.3g45.3 (高)GIもGLも高く、量に注意が必要
白米84 (高)150g (お茶碗1杯)55.7g46.8 (高)焼き芋と同様に注意が必要
スイカ72 (高)150g (一切れ)14.3g10.3 (低)GIは高いが水分が多く糖質量が少ないためGLは低い
にんじん80 (高)50g (1/2本)4.5g3.6 (低)GIは高いが、一度に食べる量が少ないためGLは低い

この表が示すように、スイカやにんじんはGI値こそ高いものの、水分が多かったり一度に食べる量が少なかったりするため、GL値は低くなります。

このGL値の概念は、「焼き芋を食べるか、食べないか」という二者択一の考え方から、「どのように、どれくらいの量を食べるべきか」という、より賢く、建設的な食事管理へと私たちを導いてくれます。

今日からできる!血糖値をコントロールする焼き芋の賢い食べ方

焼き芋が高GI・高GL食品であると理解した上で、ここからは血糖値の上昇をできるだけ抑えながら、おいしく楽しむための具体的なテクニックをご紹介します。

食べ合わせを工夫する

焼き芋を単体で食べるのではなく、他の食品と組み合わせることで、血糖値の急上昇はかなり抑えられます。

食物繊維を先に摂る(ベジファースト)

焼き芋を食べる前に、サラダ、きのこのソテー、海藻スープなど、食物繊維が豊富なものを食べましょう。

先に取り込まれた食物繊維が、後から入ってくる糖の吸収を穏やかにしてくれます。

タンパク質・脂質と一緒に摂る

牛乳や無糖ヨーグルト、チーズ、ナッツなど、タンパク質や良質な脂質を含む食品と一緒に食べるのも非常に効果的です。

これらは胃に留まる時間が長く、消化吸収のスピードを緩やかにするため、血糖値のピークを抑えることができます。

例えば、「焼き芋にシナモンと無糖ヨーグルトを添える」「おやつにナッツと一緒に少しだけ」といった食べ方がおすすめです。

お酢を活用する

お酢に含まれる酢酸には、糖の吸収を穏やかにする作用が報告されています。

食事全体に酢の物を取り入れたり、ドレッシングにお酢を使ったりするのも良いでしょう。

食べるタイミングと量を管理する

おやつとして適量を

食事と食事の間が長く空くと、次の食事で血糖値が急上昇しやすくなります。

空腹を感じる前の間食として、適量の焼き芋を摂ることは、夕食の食べ過ぎを防ぐ意味でも有効です。

量の目安を守る

GL値の観点からも、食べ過ぎは禁物です。

1日に食べる量は、ご自身の手のひらサイズの半分~1個分までを目安にしましょう。

栄養満点の「皮ごと」食べる

さつまいもの皮と実の間には、食物繊維や、抗酸化作用のあるポリフェノール、そしてさつまいも特有の整腸成分「ヤラピン」などが豊富に含まれています。

これらの栄養素を丸ごと摂るためにも、よく洗ってぜひ皮ごと食べることをおすすめします。

(※ポリフェノールに関しましては『さつまいもポリフェノールのすごい力!』、ヤラピンに関しましては『「ヤラピン」とは?|サツマイモ特有の成分を分かりやすく解説』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

GI値だけが全てじゃない!見直したいさつまいもの総合的な健康効果

ここまで血糖値の観点から焼き芋の注意点を解説してきましたが、それを気にするあまり、さつまいも自体を食生活から排除してしまうのは非常にもったいないことです。

さつまいもは、私たちの体に嬉しい効果がたくさん詰まった、栄養の宝庫なのです。

腸を元気にするダブルパワー

豊富な食物繊維

さつまいもには、水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維の両方がバランス良く含まれており、便通の改善に非常に効果的です。

(※さつまいもに含まれる食物繊維に関しましては『さつまいもの食物繊維を徹底解説!水溶性・不溶性のバランスと腸活効果』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

特有成分「ヤラピン」

さつまいもを切った時に断面から染み出る白い液体、これが「ヤラピン」です。

このさつまいも特有の成分は、腸のぜん動運動を促進し、便を柔らかくする働きがあります。食物繊維との相乗効果で、強力な整腸作用が期待できるのです。

(※ヤラピンに関しましては『「ヤラピン」とは?|サツマイモ特有の成分を分かりやすく解説』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

美肌と免疫力をサポートするビタミン

熱に強いビタミンC

さつまいもに含まれるビタミンCは、りんごの5倍以上とも言われるほど豊富です。

通常ビタミンCは熱に弱い性質がありますが、さつまいもの場合はデンプンによって保護されているため、加熱しても壊れにくいという大きな特徴があります。

コラーゲンの生成を助け、シミの原因となるメラニンの生成を抑えるなど、美肌作りには欠かせない栄養素です。

ポリフェノール

皮に多く含まれるクロロゲン酸などのポリフェノールも豊富で、体のサビつき(酸化)を防ぎ、若々しさを保つ効果が期待できます。

(※ポリフェノールに関しましては『さつまいもポリフェノールのすごい力!』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

さつまいもの栄養成分

さつまいもの優れた栄養価を、文部科学省の公式データで見てみましょう。

調理法によって水分が抜けるため、特に焼き芋は栄養が凝縮されていることがわかります。

表3: さつまいもの栄養成分比較(可食部100gあたり)

栄養素生(皮つき)蒸し焼き
エネルギー (kcal)127131151
炭水化物 (g)33.132.338.3
- 糖質 (g)30.328.535.5
- 食物繊維 (g)2.83.82.8
たんぱく質 (g)0.91.01.2
脂質 (g)0.50.20.6
ビタミンC (mg)252013

出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」等のデータを基に作成

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。

焼き芋のGI値は、他の調理法に比べて確かに高くなる傾向があり、血糖値が気になる方にとっては心配された方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、この記事を通してお伝えしたかったのは、GI値という一つの指標だけで焼き芋を判断するのではなく、その特性を正しく理解し、賢く付き合う方法があるということです。

例えば、調理法を「焼く」から「蒸す」や「茹でる」に変えるだけでGI値は大きく変わり、温かい焼き芋を一度冷やすというひと手間が、血糖値の上昇を穏やかにする「レジスタントスターチ」という心強い味方を増やしてくれます。

また、食べる順番を工夫したり、食物繊維が豊富な皮ごと食べたりすること、そして一度に食べる量を意識して「GL値」の視点を持つことで、血糖値への影響は十分にコントロールが可能です。

GI値は食品が持つ一面的なデータに過ぎません。

その数値を正しく理解し、ご自身の体と相談しながら上手に取り入れることで、甘くて美味しい焼き芋を、罪悪感なく、豊かな食生活の一部として楽しんでいただけることを願っています。

さつまいもスイーツ

焼き芋に最適なサツマイモ品種