さつまいもポリフェノールのすごい力!

秋の味覚の代表格であり、どこか懐かしい甘さで私たちを癒してくれる「さつまいも」。

焼き芋や天ぷら、スイートポテトなど、様々な料理で親しまれていますが、その素朴な見た目の裏に、私たちの健康や美容を力強くサポートする「ポリフェノール」という成分が豊富に含まれていることはご存知でしょうか。

「ポリフェノールって、なんとなく体に良いとは聞くけれど、具体的にどんなもの?」「さつまいもに含まれるポリフェノールには、どんなすごい効果があるの?」「どうせなら、その栄養を最大限に摂れる食べ方が知りたい!」

この記事は、さつまいもが持つポリフェノールの驚くべきパワーを、基礎知識から具体的な健康・美容効果、そして日々の食生活に活かすための賢い食べ方やレシピまで、分かりやすく解説していきたいと思います。

「ポリフェノール」とは?

さつまいもの話に入る前に、まずは主役である「ポリフェノール」について少しだけ学んでおきましょう。

この成分の正体を知ることで、さつまいもの本当の価値がより深く理解できます。

植物が持つ守りの力「ファイトケミカル」

ポリフェノールは、「ファイトケミカル」と呼ばれる大きなグループの一員です。

ファイトケミカルとは、植物が紫外線や害虫といった外部の厳しい環境から自らの体を守るために作り出す、色や香り、苦味、辛味などの成分のことです。

トマトの赤色リコピンや、玉ねぎのツンとくる香りの成分なども、このファイトケミカルの仲間です。

ポリフェノールの特徴は「抗酸化作用」

数多く存在するファイトケミカルの中でも、特にその健康効果で注目されているのがポリフェノールです。

自然界に存在するポリフェノールは5,000種類以上とも8,000種類以上とも言われています。

ポリフェノールはその構造や種類によって風味や色が異なり、それぞれ独自の健康作用を持っていますが、ポリフェノールの最大の特長は、その強力な「抗酸化作用」にあります。

私たちの体は、呼吸によって酸素を取り込む過程で、一部が「活性酸素」という非常に不安定で攻撃的な物質に変化します。

この活性酸素が増えすぎると、細胞を傷つけ、老化や生活習慣病、肌のシミやシワといった様々な不調の原因となります。

抗酸化作用とは、この活性酸素の働きを抑え、体へのダメージを防ぐ力のことです。

ポリフェノールは、ビタミンCやビタミンEと並ぶほどの強い抗酸化作用を持ち、私たちの体を内側から守ってくれるのです。

人間など動物は体内でポリフェノールを合成できないため、野菜・果物やお茶などの植物性食品から日常的に摂取する必要があります。

ここで一つ、面白い事実があります。

ポリフェノールは、ビタミンやミネラルのような「必須栄養素」ではありません。

体内に吸収される量も実はそれほど多くなく、そのほとんどは排出されてしまいます。

しかし、だからといって価値が低いわけではありません。

むしろ、体内に長く留まらないからこそ、その都度、食事からこまめに摂取することが大切になります。

ポリフェノールは、体を構成する材料ではなく、体のコンディションを整え、サビつきから守ってくれる「健康の応援団」のような存在だと考えると分かりやすいでしょう。

さつまいもの2大ポリフェノール「クロロゲン酸」と「アントシアニン」

さつまいもに含まれる代表的なポリフェノールとして、クロロゲン酸とアントシアニンの2種類が挙げられます。

それぞれ詳しく見てみましょう。

【クロロゲン酸】さつまいも主要のポリフェノール

クロロゲン酸(Chlorogenic acid)は、さつまいもにの主要なポリフェノールで、コーヒー豆やゴボウにも豊富なことで知られる成分です。

切ったさつまいもの断面が時間経過や加熱で茶色〜黒っぽく変色することがありますが、その主な原因がこのクロロゲン酸です。

クロロゲン酸はポリフェノールオキシダーゼ(酵素)の作用で酸化すると褐色〜黒色の物質に変化し、さらに加熱によってさつまいもに含まれる鉄分と結合すると黒い沈着を生じます。

そのため、一部では「アク(えぐみ)の成分」とも呼ばれ、食品加工上は変色による商品価値の低下を招く厄介者扱いをされてきました。

しかし近年の研究で、このクロロゲン酸には 抗酸化作用 や メラニン生成抑制作用(肌のシミを防ぐ効果)、さらに 糖の吸収を遅らせ血糖値の上昇を穏やかにする効果 や 脂肪の蓄積を抑える効果 があることが分かり、ダイエットサプリなどにも利用される注目成分になっています。

つまり、かつては「黒ずみの原因」として嫌われたクロロゲン酸こそが、さつまいもを健康・美容に役立てるキーパーソンなのです。

実際、さつまいものクロロゲン酸の量はコーヒー一杯分に相当するというデータもあります。

サツマイモのポリフェノール量(主にクロロゲン酸)の平均値(5品種)は228mg/100gであり、コーヒー一杯当たりクロロゲン酸が55~240mg含まれている量に匹敵した。

サツマイモの栄養機能成分と焼き芋の美味しい焼き方理論 P27

さつまいもを焼いたときに香ばしい焦げた匂いがどことなくコーヒーに似ているのは、このクロロゲン酸由来の香り成分があるためとも言われています。

【アントシアニン】紫色の色素ポリフェノール

パープルスイートロード

アントシアニンはポリフェノールの一種で、ブルーベリーやナス、紫キャベツなどに含まれる青~紫の天然色素成分です。

さつまいもでは、皮や肉の色が赤紫色を帯びた品種(いわゆる紫芋)にアントシアニンが豊富に含まれています。

例えば、有名な紫芋品種である「パープルスイートロード」や食品加工用の「アヤムラサキ」などは肉質が濃い紫色で、大量のアントシアニン色素を含んでいます。

アントシアニンには強力な抗酸化作用があり、活性酸素を抑えて老化や生活習慣病の予防に役立つことが報告されています。

具体的な効果としては、目の機能改善や眼精疲労予防(ブルーベリーと同様によく知られた作用)、肝機能の改善・保護作用、メタボリックシンドローム予防(脂肪代謝の改善)やアレルギー症状(花粉症)緩和など多岐にわたります。

まさに紫芋=スーパーフードと言えるほど、多面的な健康メリットが期待できる成分なのです。

さらに特筆すべきは、さつまいもに含まれるアントシアニンの構造上の特徴です。

紫芋には16種類以上ものアントシアニンが確認されていますが、その約半数は「アシル化アントシアニン」といって有機酸が結合した特殊な形をしています。

このアシル化されたアントシアニンは非常に熱や光に安定で壊れにくいことが分かっており、加熱調理をしてもその健康効果が失われにくいという大きなメリットがあります。

つまり、紫芋のポリフェノールは加熱調理してもしっかり残り、抗酸化パワーを発揮してくれるのです。

これは、調理して食べることが前提のさつまいもにとって、非常に重要な特性です。

紫いもは、ただアントシアニンを含んでいるだけでなく、「アシル化アントシアニン」を多く含んでいるという特徴があります。

この2つのポリフェノールについて、以下の表にまとめました。

表1:さつまいもの2大ポリフェノール比較表

ポリフェノール名含まれる芋の種類主な特徴期待される主な効果
クロロゲン酸全てのさつまいもコーヒーにも含まれる。切ると黒く変色する原因成分。美肌効果(メラニン生成抑制)、抗酸化作用
アントシアニン紫いも鮮やかな紫色の色素成分。熱や光に強く、安定している。強い抗酸化作用、血圧・血糖値の安定、眼精疲労の回復

ポリフェノールはさつまいものどの部分に多い?

ここまで成分の種類について見てきましたが、「さつまいものどの部分にポリフェノールが多く含まれるか?」も気になりますよね。

結論から言うと、ポリフェノールはさつまいもの皮付近に集中しています。

農業協同組合(JA)のサイトによれば、さつまいもに含まれるポリフェノールの約80%は表皮から5mm程度の層に存在すると報告されています。

つまり皮を厚めに剥いてしまうと、それだけでポリフェノールの大半を捨ててしまうことになります。

皮のすぐ内側(皮下組織)にもポリフェノールが豊富に含まれるため、健康効果を期待するならぜひ皮ごと調理して食べるのがおすすめです。

特にアントシアニンについては、紫芋でない普通の品種の場合「皮にだけ含まれている色素成分」です。

例えば一般的なさつまいも(中身は黄白色)でも皮の色が赤紫がかっている品種がありますが、その皮の色素がアントシアニンです。

従って、そうした品種では皮を残さないとアントシアニン由来のポリフェノールは摂取できないことになります。

紫芋のように中身まで紫色の品種なら話は別ですが、いずれにせよ皮にはクロロゲン酸など他のポリフェノールも集中していますので、皮ごと食べる価値は大いにあります。

実際、生のさつまいもを分析した実験でも「生の皮付き」と「生の皮なし(可食部のみ)」では抗酸化活性(ポリフェノール量)が大きく異なり、皮付きの方が1.4~2.5倍も抗酸化力が高かったと報告されています。(県産サツマイモの抗酸化活性とポリフェノールに及ぼす加熱調理の影響 P28

この結果からも、皮の存在がいかにポリフェノール量に影響するかが分かります。

なお、「さつまいもの変色を防ぐために一度水にさらしてアク抜きをする」ことがありますが、水に長時間さらすとポリフェノールが水中に溶け出して減ってしまう恐れがあります。

特にカットした断面からクロロゲン酸やヤラピンが溶出しやすいので、アク抜きは5〜15分程度の短時間にとどめるのが良いでしょう。

アク抜きをすると見た目の黒ずみや渋みは軽減できますが、その分ポリフェノールも幾分失われるジレンマがあります。

栄養重視でいくか、見た目や食感重視でいくか、料理目的に応じて調整してください。

(※詳しくは『さつまいもを水にさらすのはなぜ?』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

ポリフェノールがもたらすさつまいもの健康効果

ポリフェノールがもたらすさつまいもの健康効果

では、さつまいも中のポリフェノールを摂取すると具体的にどのような健康効果が期待できるのでしょうか。

ここでは研究論文や公的機関の発表をもとに、科学的根拠のある主な効能を紹介します。

美容面・健康面の両方からチェックしてみましょう。

【健康効果1】強力な抗酸化作用でアンチエイジング

ポリフェノール最大の特長はやはり抗酸化作用です。

活性酸素は細胞を傷つけ老化を促進したり生活習慣病の原因にもなる厄介者ですが、クロロゲン酸やアントシアニンはこの活性酸素を中和・除去して体のサビ付きを防いでくれます。

さつまいもポリフェノールの抗酸化力については、日本食品分析センターなどで測定されており、品種によって差はあるものの高いラジカル消去能(DPPH法やORAC値)が認められています。

抗酸化物質を多く含む食品を日常的に摂ることは、肌や臓器の老化予防(アンチエイジング)や癌・動脈硬化といった生活習慣病のリスク低減につながると考えられています。

特にアントシアニンは抗酸化能が非常に高く、「紫芋を一定期間食べたマウスは肝臓中の過酸化脂質が減少し肝機能が改善した」などの研究報告もあります(※動物実験の一例ですが、アントシアニンの抗酸化作用が肝臓を守る可能性を示唆するものです)。

さらに抗酸化による効果として、美容面では紫外線による肌ダメージ軽減も期待できます。

紫外線を浴びると皮膚で活性酸素が発生しコラーゲン繊維を傷つけたりメラニン色素を過剰に生成したりしますが、ポリフェノールの抗酸化作用でそうした反応を和らげることでシミやシワを防ぎ、ハリのある肌を保つ効果が期待されます。

特にクロロゲン酸については メラニン生成を直接抑制する作用 も報告されており、シミ予防・美白効果に寄与する可能性があります。

実際にクロロゲン酸を配合した化粧品開発も進んでいるほどで、美容業界からも熱視線を浴びる成分です。

【健康効果2】糖の吸収抑制による血糖値ケア・ダイエット効果

「さつまいもは甘いけど食べても太りにくい」と耳にすることがありますが、その背景にもポリフェノールの存在が関係しています。

クロロゲン酸には小腸での糖質の吸収を遅らせる作用があり、食後血糖値の急上昇(いわゆる血糖スパイク)を緩和する効果が確認されています。

この作用は、トクホ(特定保健用食品)のお茶に使われているグァバ葉ポリフェノールなどと同様で、穏やかな血糖値コントロールに役立ちます。

血糖値の急上昇を繰り返すとインスリンの過剰分泌を招き、肥満や糖尿病リスクが高まるとされていますが、食事と一緒にさつまいもポリフェノールを摂取すればこうしたリスクを減らせるかもしれません。

さらに、クロロゲン酸には肝臓での脂肪蓄積を抑制する作用も認められており、これが肥満予防やダイエットに繋がる可能性があります。

実際にクロロゲン酸はコーヒーダイエットの有効成分として注目されたことがあり、サプリメントにも配合され人気となりました。

さつまいもを適量食べることで満腹感を得つつ、ポリフェノールが糖と脂肪の代謝を助けてくれる――まさに理想的なダイエット食材と言えるでしょう。

【健康効果3】血圧・血管への作用と生活習慣病予防

紫芋由来のアントシアニンには、血管をしなやかに保ち高血圧を予防する効果も期待されています。

例えばカカオポリフェノール(チョコレート)の摂取が血管拡張と血圧低下に寄与することは有名ですが、アントシアニンにも一酸化窒素(NO)産生を促して血管内皮機能を改善する作用や、毛細血管を強化する作用があると報告されています。

紫芋を使ったある研究では、動物モデルで血圧上昇が抑制されたとの結果もあります(※こちらも前臨床段階の研究ですが、アントシアニンの持つ抗炎症・抗酸化作用が血管を保護した結果と考えられます)。

また、さつまいもポリフェノールには LDLコレステロールの酸化を抑える(動脈硬化の進行を抑制する)働きも期待できます。

動脈硬化の予防にはLDLコレステロール自体を下げるだけでなく、それが酸化して血管壁に沈着するのを防ぐことが重要ですが、ポリフェノールはまさに酸化抑制のプロです。

結果的に心筋梗塞や脳卒中などのリスク低減にも繋がる可能性があり、ポリフェノールの継続摂取と循環器病リスクの低さを関連付ける疫学研究も増えてきています。

総じて、さつまいものポリフェノールは「食べるサプリメント」とも呼べる頼もしい働きを持っており、美容意識が高い方から生活習慣病予防を心がける方まで幅広くメリットを享受できるでしょう。

ただし、健康効果を十分得るには適切な調理・食べ方でポリフェノールを無駄なく摂取することが大切です。

品種によるポリフェノール含有量の違い【比較表】

ひと口にさつまいもと言っても、実は多くの品種が存在し、それぞれ栄養価にも特徴があります。

特にポリフェノール含有量は 品種(肉色)によって大きく異なり、紫芋が突出して高い傾向にあります。

以下に主な品種を例に、総ポリフェノール量の違いを比較してみましょう。

品種特徴(肉色)総ポリフェノール含有量(mg没食子酸相当量/100g 生芋)
紅はるか黄白色の甘味種(黄色系)約124 mg (基準)
パープルスイートロード淡い紫色の甘味種(紫系)約152 mg (ベニハルカ比 + ~20%程度)
アヤムラサキ濃い紫色の加工用種(紫系)約595 mg (ベニハルカ比 + ~380%!)
雪室貯蔵によるさつまいもの成分と機能性の変化について 表2.貯蔵における糖度、水分、ポリフェノール量の変化」を参考に作成

ご覧のように、紫芋系の品種は総ポリフェノール量が桁違いに高い場合があります。

特にアヤムラサキの約595mg/100gという値は、黄白色のベニハルカの約5倍にも達しています。

同じ紫芋でもパープルスイートロードは150mg程度と比較的控えめですが、それでもベニハルカより多く、紫芋全般でポリフェノールが多い傾向は明らかです。

紫色の濃さ(アントシアニン量)に比例して総ポリフェノール量も増えると考えてよいでしょう。

一方、一般的な黄色系品種(紅あずま、高系14号など)でも100g中にポリフェノールが数十〜百数十mgは含まれると見込まれます。

先述の平均228mg/100gという値は複数品種の平均値ですが、紫芋を含めた平均なのかによっても異なるでしょう。

実際、日本人によく馴染みのある「ナルトキントキ(高系14号系)」などはクロロゲン酸主体で、茨城県の分析では100g中100mg前後とのデータもあります。

いずれにせよ、ポリフェノール摂取を意識するなら紫芋が最有力なのは間違いありません。

紫芋は焼き芋にすると独特の風味がありますが、スイーツやスムージー、料理の彩りにも活用しやすいので、ぜひ取り入れてみてください。

もちろん通常のさつまいもでも皮ごと食べれば十分なポリフェノールが摂れますので、季節や用途に応じて使い分けましょう。

調理法によるポリフェノールへの影響【比較表】

次に、調理方法によってさつまいも中のポリフェノール含有量や抗酸化活性がどのように変化するかを見てみましょう。

「加熱すると栄養が減るのでは?」と心配される方もいるかもしれませんが、さつまいもに関しては調理によってむしろポリフェノールの有効性が増すという嬉しい報告もあります。

以下に主な調理法別の影響を比較します。

調理・下処理方法ポリフェノール量・抗酸化活性への影響ポイント
生のまま(皮なし)基準(最も低い) – 可食部のみの場合ポリフェノール量は最少。皮を除くとポリフェノール大幅減。
生のまま(皮付き)生皮なしの1.4~2.5倍の抗酸化活性 – 皮に豊富なため増加。生でも皮付きで食べるとポリフェノール摂取量アップ。
水さらし(アク抜き)若干減少 – ポリフェノールが水中に溶出して流失。5~15分程度なら影響小。アク抜きは短時間に。長時間は避ける。
蒸す(ふかし芋)増加傾向 – 20分程度じっくり蒸すと抗酸化力が約1.5~2倍にアップ。水に触れず加熱するためポリフェノールが流れ出ない。
焼く(焼き芋)増加傾向 – オーブン等で加熱するとポリフェノール総量・クロロゲン酸が増加。ゆっくり加熱で甘味も増し、栄養的にも◎。
茹でる(ゆで芋)減少傾向 – 茹で汁にポリフェノールが溶け出すため損失。茹で時間が長いほど減少。煮物等では汁ごと摂取すればポリフェノールを無駄にしない。
電子レンジ加熱増減は料理次第 – 短時間加熱で損失少。水分を加えず加熱すればポリフェノール保持○。レンジ調理は手軽だが加熱ムラに注意。

上の表から分かるように、蒸し芋や焼き芋などの穏やかな加熱調理ではポリフェノール量・抗酸化活性が増加する傾向があります。

一見不思議に思えますが、これは加熱によって細胞壁が壊れポリフェノールが遊離しやすくなることや、水分が飛んで成分が濃縮されること、さらにクロロゲン酸が加熱で別の抗酸化物質に変化する可能性などが考えられています。

特にクロロゲン酸に関しては、徳島県工業技術センターの研究で焼き芋・蒸し芋にすると生より含有量が増加したことが報告されています。

同じ研究ではORAC値(抗酸化力)も生より加熱後の方が高く、皮付きのまま加熱することで抗酸化活性が最大化しました。

ただし、茹で調理は注意が必要です。ポリフェノールは水溶性のため、茹でるとかなりの割合が煮汁中に溶け出してしまいます。

例えばゴボウ(クロロゲン酸豊富な野菜)では、生と比べて 茹でるとポリフェノール含有量が有意に低下したとのデータがあります。

さつまいもでも同様に、長時間茹でたり茹でこぼしたりすればポリフェノール損失は避けられません。

そこで、もし茹でる場合は少量の水で蒸し煮にする、あるいは汁ごと食べられる味噌汁・スープにするといった工夫でポリフェノールを余さず摂るようにしましょう。

電子レンジ調理に関しては、資料が少ないものの短時間で中心部まで加熱できるため栄養損失は比較的少ないと考えられます。

ただし、水を加えて茹でるような形で電子レンジにかければ結局溶出損失がありますし、加熱ムラで一部が過度加熱されるとポリフェノールが劣化する可能性もあります。

レンジで加熱する際も皮付きのまま、かつ加熱しすぎないようにすると良いでしょう。

例えばさつまいもを丸ごとラップに包んで加熱し、途中で上下を返して均一に火を通すと、蒸し芋に近い状態で調理できます(市販の焼き芋専用機能付き電子レンジなども活用すると便利です)。

総合すると、さつまいものポリフェノールを効率よく摂るには「皮ごと」「水にさらしすぎず」「蒸し焼きなどでじっくり加熱」がキーポイントと言えます。

ポリフェノールを逃さない!効率的な摂取方法と調理のコツ

ポリフェノールを逃さない!効率的な摂取方法と調理のコツ

最後に、ここまでの調査結果を踏まえて、読者の皆さんが日々の食事でさつまいものポリフェノールを無駄なく摂取するための実践的なアドバイスをまとめます。

【調理のポイント1】皮ごと調理・皮ごと食べる

繰り返しになりますが、さつまいものポリフェノールの大半は皮とその直下に存在します。

洗って泥を落としたら、皮は剥かずにそのまま調理しましょう。

例えば焼き芋やふかし芋は皮つきのまま食べるのが基本ですし、大学芋や天ぷらでも皮つきのまま揚げる方が香ばしさも増しておすすめです。

どうしても皮の食感が気になる場合でも、できるだけ薄く剥くようにし、剥いた皮は捨てずにキンピラ風に炒めるなど工夫してみてください(皮だけでも立派なおかずになります)。

【調理のポイント2】加熱調理はゆっくりと

焼く・蒸すなどの加熱でポリフェノールの抗酸化力が高まる傾向があるとはいえ、焦がしたり高温で揚げすぎたりすると逆に有用成分が壊れる可能性もあります。

理想は低めの温度でじっくり火を通すことです。

石焼き芋がおいしく栄養的にも優れているのは、まさに低温で長時間かけて加熱しているからです。

オーブンで焼く場合は160~180℃程度で時間をかけて焼く、蒸す場合も弱火~中火で芯までほっくりするまで蒸らす、といった具合にすると甘味も増しポリフェノールもキープできます。

電子レンジ調理でも、急加熱よりは解凍モードを活用したり途中で休ませたりして火を通すと良いでしょう。

(※低温でゆっくり加熱することで甘味が増加する理由に関しては『さつまいもの甘さの秘密|「熟成」「糊化」「糖化」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

【調理のポイント3】アク抜きは最小限に

切ったさつまいもを水にさらすと、クロロゲン酸等のポリフェノールが溶け出し黒ずみ(アク)が抜けますが、一緒に有効成分まで抜け出てしまいます。

見た目重視の料理(例えば天ぷらやサラダ用)では軽くさらすのも仕方ありませんが、それでも5〜10分程度の短時間に留めましょう。

特に 紫芋は水にさらすと紫色が流出=アントシアニン流失 を意味するので、基本さらさずそのまま加熱した方が色も栄養も綺麗に残ります。

どうしても変色が気になる場合は、レモン汁やお酢を少し加えた水にさらすと酵素の働きが抑えられ黒変防止に効果的です(酸はポリフェノールの酸化を遅らせます)。

この方法だと短時間で効果が出るのでオススメです。

【調理のポイント4】茹で汁も活用する

さつまいもを煮物や汁物に使う場合、ポリフェノールが煮汁に溶け込んでいます。

ぜひ汁ごと全部食べる料理にして、そのポリフェノールも丸ごと取り入れましょう。

例えば豚汁やシチューにさつまいもを入れれば甘味が出て美味しく、なおかつ汁まで飲めば栄養満点です。

さつまいもご飯など炊き込み系の場合も、下茹ではせず生のまま一緒に炊くことで流出を防げます。

【調理のポイント5】相乗効果を狙う

ポリフェノールは他の栄養素と組み合わせることで効果が高まる場合があります。

例えばビタミンCやビタミンEも抗酸化作用を持ちますが、さつまいもには幸いそれらも含まれています。

さらに油と一緒に調理するとビタミンEの吸収率が上がるため、オリーブオイルでソテーしたりバターを少量加えて風味付けするのも良いでしょう。

加えて、食物繊維豊富なさつまいもとポリフェノールは腸内環境改善という点で相乗効果がありますし、ポリフェノールが腸内の善玉菌のエサになるとの報告もあります。

ヨーグルトに紫芋ペーストを混ぜてデザートにするなど、腸活フードとの組み合わせも一案です。

以上のポイントを押さえれば、さつまいものポリフェノールを日々の食卓で無理なく摂取できるでしょう。

例えば朝食に皮付きのさつまいもスムージー(蒸し芋と牛乳をミキサーにかけるだけ!)、昼食にさつまいもと人参のポタージュ(抗酸化たっぷりの鮮やかスープに)、おやつに紫芋のヨーグルト和え、夕食にさつまいもと豚肉の味噌炒め(ビタミンEとポリフェノールの相乗効果)……といった具合に、工夫次第でレパートリーは広がります。

まとめ

まとめ

さつまいもは「準完全食品」と呼ばれるほど栄養バランスに優れ、ビタミン・ミネラルや食物繊維も豊富ですが、その中でもポリフェノール類は美容と健康に嬉しい機能性成分です。

クロロゲン酸とアントシアニンという2つの主要ポリフェノールが、抗酸化作用を発揮して生活習慣病予防から美肌・アンチエイジングまで幅広くサポートしてくれることが、文献や研究から見えてきました。

特に忙しい現代人にとって、手軽に買えて調理も簡単なさつまいもを活用しない手はありません。

秋冬の焼き芋だけでなく、一年中さつまいもを上手に食事に取り入れて、内側からのセルフケアを始めてみませんか?

ポリフェノール豊富なさつまいもを食べることは、「おいしい」と「健康」の両方を同時に叶える賢い選択です。

最後に、本記事で紹介した内容は国内外の研究や公的機関の情報に基づいていますが、食品の効果には個人差がある点はご留意ください。

また、さつまいも自体は糖質も多い食品ですので、適量(1日当たり中くらいの芋1本程度)を目安に、他の野菜や主食とのバランスも考えながら取り入れると良いでしょう。何事もバランスが大切です。

さつまいものポリフェノールの力を味方に付けて、「おいしく美しく健康に」日々を過ごしていただければ幸いです。

ぜひ明日の食卓から、さつまいもパワーを実感してみてください。

さつまいもスイーツ

焼き芋に最適なサツマイモ品種