焼き芋のカロリーは?

秋から冬にかけて、あの甘くて香ばしい香りが漂ってくると、ついつい食べたくなってしまう「焼き芋」。

アツアツで蜜がとろけるような焼き芋は、まさに至福のひとときですよね。

でも、その濃厚な甘さから「こんなに甘いのに、カロリーは大丈夫?」「食べたら太ってしまうのでは?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、そんな焼き芋にまつわるカロリーや栄養の疑問にお答えします。

単にカロリーの数字を見るだけでなく、なぜ焼き芋が甘くなるのかという科学的な仕組みから、ごはんやパン、お菓子と比べた場合の位置づけ、そしてダイエット中でも楽しめる「賢い食べ方」まで、分かりやすくご説明したいと思います。

焼き芋のカロリー|ごはん・パン・お菓子との比較

まずは皆さんが最も気になっている「焼き芋のカロリー」について、結論からお伝えします。

公式なデータをもとに、他の食品とも比べながら見ていきましょう。

焼き芋のカロリーは1本あたり何kcal?

文部科学省が公表している「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、焼き芋(皮なし)のカロリーは100gあたり151 kcalです。

食品群食品番号検索番号食品名2020年度版2015年度版
0202008222<いも類> (さつまいも類) さつまいも 塊根 皮なし 焼き151163
0202006220<いも類> (さつまいも類) さつまいも 塊根 皮なし 生126134
0202007221<いも類> (さつまいも類) さつまいも 塊根 皮なし 蒸し131134

スーパーなどで売られている一般的なサイズのさつまいもは1本あたり200g〜250g程度なので、焼き芋1本分だとおよそ300 kcal〜380 kcalが目安になります。(※焼き芋の重さに関しましては『焼き芋のサイズの重さの基準とは?』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

ここで、「ネットで調べると131kcalや126kcalなど、色々な数字が出てきて混乱する」という方もいるかもしれません。

この数値の違いには明確な理由があります。

それは、調理による水分の蒸発です。

さつまいもは焼く過程で水分が抜けていきます。

水分が抜けると、その分、栄養素が凝縮されるため、同じ100gあたりのカロリーや糖質の数値が高くなるのです。

例えば、生のさつまいもは100gあたり126kcalですが、焼くことで水分が飛び、100gあたりのカロリーが151kcalに増加したように見えるのです。

しかし、ここで非常に重要なポイントがあります。

それは、さつまいも1本そのものの総カロリーは、調理法を変えても変わらないということです。

生のさつまいもを焼いても蒸しても、摂取するカロリーの総量に変化はありません。

ですから、100gあたりの細かな数値の差に一喜一憂するよりも、「自分が今から食べるさつまいもが、どれくらいの大きさか」を意識する方が実践的です。

この記事では、比較の基準として信頼性の高い公式データである「151 kcal/100g」を使用していきます。

主食(ごはん・パン)とのカロリー・糖質比較

焼き芋を「おやつ」ではなく、「主食の代わり」として考える方もいるでしょう。

では、毎日食べているごはんとパンに比べて、焼き芋はどうなのでしょうか。

表1: 「焼き芋」「ごはん」「食パン」 栄養比較(100gあたり)

食品名エネルギー炭水化物糖質食物繊維GI値(目安)
焼き芋(皮なし)151 kcal39.0g34.5 g4.5 g高い (約80-94)
ごはん(精白米)156 kcal37.1 g35.6 g1.5 g高い (約70-88)
食パン(角形)248 kcal46.4 g42.2 g4.2 g高い (約70-75)

出典:文部科学省 食品成分データベース

この表からわかるように、焼き芋のカロリーは100gあたりで比較すると、ごはんとほぼ同じです。

食パンよりは低カロリーですが、糖質の量はごはんやパンと同等以上に含まれています。

しかし、特筆すべきは食物繊維の量です。

焼き芋はごはんの2倍以上の食物繊維を含んでいます。(※食物繊維に関しましては『さつまいもの食物繊維を徹底解説!』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

これは、焼き芋が精製された穀物ではなく、野菜そのものである「ホールフード」だからこその強みです。

人気のおやつとのカロリー・脂質比較

人気のおやつとのカロリー・脂質比較

次に、おやつとして焼き芋を食べる場合を考えてみましょう。

ついつい手が伸びてしまうポテトチップスやチョコレートと比較すると、その優秀さが際立ちます。

表3: 焼き芋 vs 人気のおやつ 栄養比較(100gあたり)

食品名エネルギー脂質糖質ナトリウム
焼き芋151 kcal0.2 g35.5 g18 mg
ポテトチップス541 kcal35.2 g50.5 g400 mg
ミルクチョコレート550 kcal34.1 g51.9 g64 mg

出典:文部科学省 食品成分データベース

一目瞭然ですね。

ポテトチップスやチョコレートのカロリーは焼き芋の3倍以上。

そして、最も大きな違いは脂質の量です。

焼き芋の脂質はほぼゼロに近いのに対し、スナック菓子やチョコレートはカロリーの多くを脂質が占めています。

焼き芋は決して「低カロリー」ではありませんが、ビタミンやミネラル、食物繊維といった体に必要な栄養素を含みながら、余計な脂質や塩分をほとんど含まない、非常に質の高いおやつであると言えます。

なぜ?焼き芋が甘くなる仕組みとカロリーの関係

焼き芋の魅力は何と言っても、あの蜜のように甘い味わいです。

しかし、生のさつまいもをかじっても、それほど甘くはありませんよね。

この魔法のような変化は、さつまいも内部で起こる「科学反応」によるものなのです。

その主役となるのが、「β-アミラーゼ(ベータアミラーゼ)」という消化酵素です。

生のさつまいもには、甘くない「でんぷん」が豊富に含まれています。

でんぷんは、ブドウ糖がたくさん長く繋がった巨大な分子です。

このままでは、私たちの舌は甘さを感じることができません。

ところが、さつまいもをじっくりと加熱すると、眠っていたβ-アミラーゼが活発に働き始めます。

この酵素は「ハサミ」のような役割を果たし、巨大なでんぷんの鎖をチョキチョキと切り分け、ブドウ糖が2つ繋がった「麦芽糖(マルトース)」という小さな糖に変えていきます。

この麦芽糖こそが、水飴の主成分でもあり、焼き芋の濃厚で自然な甘さの正体なのです。

このβ-アミラーゼが最も効率よく働くには、「65℃〜75℃」という特定の温度帯を、できるだけ長く保つことが鍵となります。

  • 温度が低すぎると、酵素の働きが鈍くなります。
  • 逆に、電子レンジのように急激に温度が上がりすぎると、酵素が本格的に働く前に壊れてしまい(失活)、甘さを引き出すことができません 1

昔ながらの「石焼き芋」がなぜあれほど甘いのか、もうお分かりですね。

熱した石が発する遠赤外線で、さつまいもの中心までゆっくり、じっくりと熱が伝わります。

これにより、β-アミラーゼが最も活躍する「ゴールデンタイム」が長くなり、でんぷんが最大限、甘い麦芽糖へと変化するのです。

(※βアミラーゼの働きに関しましては『さつまいもの甘さの秘密「β-アミラーゼ」』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

焼き芋はダイエットの味方?それとも敵?GI値の真実

「食物繊維が豊富で、お通じにも良い」というプラスの側面と、「カロリーも糖質も意外と高い」というマイナスの側面。

ダイエット中の人にとって、焼き芋はまさに光と影を併せ持つ存在です。この謎を解き明かす鍵が「GI値(グリセミック・インデックス)」です。

GI値とは、その食品を食べた後に、どれくらい血糖値が急激に上昇するかを示した指標です。

  • 高GI食品: 食べると血糖値が急上昇・急降下する。インスリンが過剰に分泌され、脂肪を溜め込みやすくなる。
  • 低GI食品: 血糖値の上昇がゆるやか。インスリンの分泌が穏やかで、エネルギーが持続しやすい。

ここで、多くの方が誤解している、非常に重要な事実をお伝えしなければなりません。

「さつまいもは低GI食品だから、ダイエットに良い」という話を聞いたことがあるかもしれません。

しかし、これは半分正解で、半分は間違いです。正確には、「調理法によって、さつまいものGI値は劇的に変化する」のです。

研究によると、焼いたさつまいものGI値は80〜94と非常に高く、これは白米や食パンに匹敵、あるいはそれ以上になることもあるのです。

表4: 調理法で激変!さつまいものGI値比較

調理法GI値(目安)分類
約 32低GI
茹でる約 46 - 63低GI〜中GI
蒸す約 63中GI
電子レンジ約 66中GI
焼く約 82 - 94高GI
揚げる約 76高GI

GI値は品種や調理時間によって変動します。

シドニー大学の基準では55以下が低GI、56〜69が中GI、70以上が高GIとされています。(大塚製薬HP:GIについて学ぼう

なぜ、焼くとGI値が跳ね上がるのでしょうか。

その理由は、先ほど解説した「甘くなる仕組み」にあります。

β-アミラーゼの働きで、消化に時間がかかる複雑な「でんぷん」が、消化吸収されやすい単純な「麦芽糖」に分解されるため、血糖値が急上昇しやすくなるのです。

つまり、焼き芋を最高に美味しくするプロセスが、同時にGI値を高くするプロセスでもあるのです。

効果を最大化する!ダイエット中の賢い焼き芋の食べ方5選

「焼き芋は高カロリーで高GI…じゃあ、ダイエット中はやっぱり我慢するしかないの?」

いいえ、そんなことはありません。焼き芋の特性を正しく理解し、いくつかのルールを守れば、ダイエット中でも強力な味方になってくれます。

科学的根拠に基づいた、5つの賢い食べ方をご紹介します。

【ルール1】栄養の宝庫「皮ごと」食べる

焼き芋を食べるとき、皮をむいていませんか?

それは非常にもったいないことです。

さつまいもの皮とそのすぐ下の部分には、実だけでは得られない貴重な栄養素が凝縮されています。

  • 食物繊維: 皮ごと食べることで、食物繊維の摂取量が格段にアップします。皮付きの蒸しさつまいもは、皮なしに比べて食物繊維が1.5倍以上も多いというデータもあります。
  • ポリフェノール: 皮の紫色はアントシアニン、そして皮付近にはコーヒーにも含まれるクロロゲン酸という強力な抗酸化物質が豊富です 12。これらのポリフェノールは、体のサビつきを防ぎ、若々しさを保つ手助けをしてくれます。実に、これらのポリフェノールの約80%は、皮から5mmの部分に集中していると言われています。(※ポリフェノールに関しましては『さつまいもポリフェノールのすごい力!』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
  • ヤラピン: さつまいもを切った時に出る白い液体「ヤラピン」。これはさつまいも特有の成分で、腸の動きを活発にし、お通じをスムーズにする効果が古くから知られています。このヤラピンも、皮の近くに多く含まれています。(※ヤラピンに関しましては『「ヤラピン」とは?サツマイモ特有の含まれる成分』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

皮ごと食べる際は、流水で表面の土をよく洗い流してから調理してください。

栄養をまるごといただく、という意識で食べてみましょう。

【ルール2】魔法の成分「冷やして」食べる

高GIであることが焼き芋の弱点だとお伝えしましたが、その弱点をカバーする魔法のような食べ方があります。

それが「冷やして食べる」ことです。

加熱したさつまいもを一度冷やすと、でんぷんの一部が「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」という特殊な成分に変化します。

レジスタントスターチには、ダイエット中に嬉しいこんな効果があります。

  1. 食物繊維のように働く: 小腸で消化されずに大腸まで届き、善玉菌のエサとなって腸内環境を改善します。
  2. カロリーが低い: 消化されにくい性質のため、通常のでんぷんが1gあたり約4kcalなのに対し、レジスタントスターチは約半分の2kcal程度しかありません。
  3. 血糖値の上昇を穏やかにする: 消化吸収がゆっくりになるため、食後の血糖値の急上昇を抑え、結果的にGI値を下げる効果が期待できます 33

熱々の焼き芋も魅力的ですが、ダイエット効果を最大限に引き出すなら、あえて冷やして食べるのがおすすめです。

多めに焼いておき、冷蔵庫で冷やしておけば、手軽でヘルシーな常備おやつになります。

(※レジスタントスターチに関しましては『冷凍焼き芋で注目の「レジスタントスターチ」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

【ルール3】食べる「タイミング」を意識する

同じものを食べても、食べる時間帯によって体への影響は変わります。

焼き芋を食べるなら、体の代謝が活発な朝食や昼食、日中のおやつがベストタイミングです。

日中に摂取した糖質は、活動のためのエネルギーとして効率よく消費されやすいです。

逆に、夜遅い時間帯は避けるのが賢明です。

夜は代謝が落ち、消費されなかったエネルギーが体脂肪として蓄積されやすくなるためです。

もし夜に食べる場合は、夕食の一部として少量を取り入れ、就寝の2〜3時間前までには食べ終えるようにしましょう。

【ルール4】1日の「適量」を守る

どんなに体に良い食べ物でも、食べ過ぎは禁物です。焼き芋は栄養豊富ですが、カロリーと糖質もそれなりにあります。

ダイエット中に楽しむなら、1日あたり150g程度を目安にしましょう。

これは、中くらいの焼き芋の半分〜2/3本、小さめのものなら1本くらいです。

この量を守ることで、カロリーオーバーを防ぎながら、食物繊維やビタミンなどの恩恵をしっかり受けることができます。

【ルール5】「置き換え」で賢く取り入れる

ダイエットの基本は「摂取カロリー<消費カロリー」です。

焼き芋を食べる際は、普段の食事にプラスするのではなく、何かと「置き換える」ことを徹底しましょう。

例えば、

  • 毎日食べていたチョコレートやスナック菓子を、冷やし焼き芋に置き換える。
  • 昼食のごはん(白米)を、同量程度の焼き芋に置き換える。

このように、高脂質・高カロリーなお菓子や、栄養価の低い精製された主食を焼き芋に置き換えることで、満足感を得ながら、摂取カロリーを抑え、かつ栄養価を高めることができます。

まとめ

まとめ

今回は、焼き芋のカロリーと栄養について、深く掘り下げて解説しました。

最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。

  • 焼き芋のカロリーは100gあたり151kcal。ごはん(精白米)とほぼ同じで、決して低カロリーではありません。
  • しかし、脂質がほぼゼロで、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富なため、スナック菓子などと比べると非常に質の高い食品です。
  • 焼き芋の甘さは、でんぷんが酵素(β-アミラーゼ)の働きで麦芽糖に変わるため。じっくり加熱するほど甘みが増しますが、同時にGI値も高くなります
  • ダイエット効果を最大化する賢い食べ方は、「皮ごと」「冷やして」「日中に」「適量を」「置き換えで」食べること。
  • 特に「冷やす」ことで増えるレジスタントスターチは、高GIという焼き芋の弱点を補い、腸内環境の改善も期待できる魔法の成分です。

正しい知識を身につけ、この素晴らしい自然の恵みを、賢く、美味しく、楽しんでください。

さつまいもスイーツ

焼き芋に最適なサツマイモ品種