
オーブンから漂う、甘く香ばしい香り。
黄金色に輝き、割った瞬間に蜜がじゅわっと溢れ出す、あの幸福感。
焼き芋は、ただの「おやつ」という言葉では片付けられない、日本の秋冬を象徴するソウルフードと言えるでしょう 。
しかし、いざ自宅で作ってみると、「お店で買うような、あのねっとりとした甘さが出ない」「なんだかパサパサしてしまう」といった経験はありませんか?
その原因は、サツマイモの「品種選び」と、おいしさが生まれる「コツ」を知らないことにあるのかもしれません。
この記事では、人気のサツマイモ品種それぞれの個性や魅力を比較しながら、わかりやすくご説明したいと思います。
「ねっとり系」VS「ホクホク系」あなたはどっち派?
焼き芋の世界は、大きく分けて二つの潮流があります。
一つは、近年の焼き芋ブームを牽引する、蜜が多くてクリーミーな「ねっとり系」。
そしてもう一つは、昔ながらの素朴な甘さで根強い人気を誇る「ホクホク系」です 。
- ねっとり系: 加熱すると水分が多く、粘質の肉質に変化するタイプ。まるでスイーツのような濃厚な甘さと、とろけるような食感が特徴です。
- ホクホク系: 加熱すると粉質の肉質になり、栗のようなほっくりとした食感が楽しめるタイプ。上品で優しい甘さが魅力です。
どちらが良いというわけではなく、これは完全に好みの世界。
まずは、あなたがどちらのタイプの焼き芋を求めているかを知ることが、最高の品種選びへの第一歩です。
実は、この「ねっとり系」の流行は、単なる食のトレンドではありません。
かつての焼き芋はホクホク系が主流でしたが、2003年頃から始まった「第4次焼き芋ブーム」は、「安納芋」や2010年に品種登録された「紅はるか」といった、糖度が高く粘質な品種の登場によって牽引されてきました。
これは、農研機構などを中心とした品種改良技術の進歩が、消費者の新たな嗜好を掘り起こし、市場そのものを大きく変えたことを示しています。
まずは、代表的な品種がどちらのタイプに属するのか、簡単なマップで見てみましょう。
食感タイプ | 代表的な品種 |
ねっとり系 | 紅はるか、安納芋、ふくむらさき |
しっとり系(中間) | シルクスイート、クイックスイート |
ホクホク系 | 紅あずま、なると金時 |
この後、それぞれの品種の個性を詳しく見ていきますので、ご自身の好みを思い浮かべながら読み進めてみてください。
焼き芋の人気品種を徹底比較
それでは、焼き芋に人気の品種を個別にご紹介します。
それぞれの個性を一目で比較できるよう、まずは総合比較チャートをご覧ください。
【表1:焼き芋用サツマイモ 詳細比較チャート】
品種名 | 食感タイプ | 甘さの目安 | 食感の詳細 | 風味・特徴 | 焼き芋にした時の姿 |
紅はるか | ねっとり | ★★★★★ | しっとり感とねっとり感のバランスが良い。なめらかな舌触り。 | 非常に糖度が高いが、後味はすっきり。蜜のようなコクのある甘み。 | 蜜が溢れ出し、皮の周りがキャラメルのようになることも。肉色は鮮やかな黄色。 |
シルクスイート | しっとり | ★★★★☆ | 絹のようになめらかで、とろけるような口どけ。繊維が少ない。 | 濃厚でありながら上品な甘さ。後味が良く、しつこさがない。 | 水分が多く、きめ細やかな肉質。肉色はクリーム色から淡いオレンジ色。 |
安納芋 | ねっとり | ★★★★★ | 水分が多く、非常にクリーミー。スプーンですくえるほどの柔らかさ。 | 蜜のように濃厚でコクのある甘さ。天然のスイートポテトのよう。 | 蜜が滴り、肉色は鮮やかな濃いオレンジ色。 |
クイックスイート | ややねっとり | ★★★☆☆ | ねっとりとしてみずみずしい食感。冷めても柔らかさが持続する。 | 電子レンジでも甘くなりやすい。優しい甘さで食べやすい。 | 肉色は淡黄色。オーブンで焼けば、よりしっとり感が増す。 |
ふくむらさき | しっとり | ★★★★☆ | やや粘質でしっとりとした食感。従来の紫芋より格段になめらか。 | 「紅はるか」並みの高い糖度。クセがなく食べやすい。 | 肉色は鮮やかで濃い紫色。アントシアニンが豊富。 |
紅あずま | ホクホク | ★★★☆☆ | 粉質で、栗のようなホクホク感。繊維が少なく、口の中でほろりと崩れる。 | 甘みとコクのバランスが良い。昔ながらの素朴で優しい味わい。 | 皮がパリッと焼き上がり、中身は鮮やかな黄色。 |
なると金時 | ホクホク | ★★★☆☆ | きめ細かい粉質で、上品なホクホク感。繊維が少ない。 | 栗のような風味と、後味の良い上品な甘さ。 | 皮は鮮やかな紅色、加熱すると中身は美しい黄金色に。 |
【ねっとり界の絶対王者】紅はるか
2010年に品種登録された「紅はるか」は、「(既存の品種より)はるかに優れている」という由来の通り、現代の焼き芋界を象徴する存在です。
その最大の特徴は、安納芋と同等かそれ以上とも言われる圧倒的な糖度の高さ 。
加熱すると糖度が50~60度にも達することがあると言われています。
食感はしっとり・ねっとり系で、濃厚な甘さにもかかわらず後味はすっきりしているため、いくらでも食べられてしまう魅力があります。
外観の形も揃いやすく、病害虫にも比較的強いことから生産者に好まれ、現在では作付面積で日本一を誇る人気品種です。
(※紅はるかに関しましては『「紅はるか」の魅力を徹底解剖!』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
【絹のような口どけ】シルクスイート
2012年頃から市場に登場した「シルクスイート」は、その名の通り、絹のようになめらかな舌触りが最大の魅力です。
食味の良い「春こがね」となめらかな食感の「紅まさり」を交配して生まれ、両親の良いところを受け継いでいます。
収穫直後はやや粉質ですが、一定期間貯蔵・熟成させることでデンプンが糖に変わり、しっとりとした粘質へと変化します。
糖度は紅はるかほど高くはありませんが、濃厚でありながら上品で後味のすっきりした甘さは、まさにスイーツそのものです。
(※シルクスイートに関しましては『「シルクスイート」の魅力を徹底解剖!』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
【元祖・蜜芋】安納芋
ねっとり系焼き芋ブームの火付け役ともいえるのが、鹿児島県種子島を故郷とする「安納芋」です。
皮が赤い「安納紅」と、白っぽい「安納こがね」の2種類があります。
水分が非常に多く、じっくり加熱することでデンプンが糖に変わり、まるでクリームのようにねっとりとろける食感が生まれます。
その糖度は、上手に焼けば40度にも達すると言われ、「蜜芋」の愛称で親しまれています。
種子島のミネラルを豊富に含んだ土壌と潮風が、この独特の甘さを育む秘訣とされています。
(※安納芋に関しましては『「安納芋」の魅力を徹底解剖!』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
【時短の革命児】クイックスイート
忙しい現代人の救世主とも言えるのが、農研機構が開発した「クイックスイート」です。
この品種の最大の特徴は、主成分であるデンプンが糊状に変化し始める「糊化(こか)温度」が、一般的なサツマイモより約20℃も低いこと。
このユニークな特性により、通常は甘くなりにくい電子レンジでの短時間加熱でも、しっかりと甘さを引き出すことができるのです。
食感はねっとりとしてみずみずしく、冷めても味が落ちにくいので、お弁当などにも向いています。
(※クイックスイートに関しましては『クイックスイートの特徴と魅力|電子レンジ5分でも甘いサツマイモ品種』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
【美味なる紫】ふくむらさき
「紫芋は色がきれいだけど、甘さが物足りない」という従来のイメージを覆したのが、2021年に品種登録された新しいスター「ふくむらさき」です。
その糖度は、なんと人気品種「べにはるか」に匹敵し、食感もしっとりとしていて非常に食味が良いのが特徴です。
鮮やかな紫色の源であるポリフェノールの一種「アントシアニン」の含有量も、従来の食用紫芋「パープルスイートロード」の約1.4倍と豊富。
「その美味しさで食べた人を幸福(福)にする紫芋」という名前の由来も素敵です。
(※ふくむらさきに関しましては『紫さつまいも「ふくむらさき」の特徴をわかりやすくご説明します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
【ホクホク系の代表格】紅あずま
関東地方を中心に、長年愛され続けてきたホクホク系さつまいもの代表格が「紅あずま」です。
最近のねっとり系とは一線を画す、粉質で栗のようなホクホクとした食感が魅力。
甘みとコクのバランスが絶妙で、どこか懐かしい「昔ながらの焼き芋」の味を楽しむことができます。
その食感は天ぷらや大学芋にも最適で、調理の幅が広いのも人気の理由です。
【西の横綱】なると金時
西日本でホクホク系の横綱といえば、徳島県が誇るブランド芋「なると金時」です。
温暖な気候と、ミネラルを豊富に含んだ水はけの良い砂地の畑で栽培されることで、他にはない上品な甘みと栗のようなホクホクとした食感が生まれます。
皮が薄く、加熱すると中身が鮮やかな黄金色に輝くのも特徴で、その美しい見た目も食欲をそそります。
なぜサツマイモは焼くと甘くなるの?
焼き芋は「低温でじっくり焼くと甘くなる」とよく言われますが、焼き芋が甘くなるプロセスは、大きく3つのステップに分けられます。
- 【準備】デンプンの「糊化(こか)」 サツマイモの主成分であるデンプンは、生のままではβ-アミラーゼという酵素が働きにくい構造をしています。しかし、加熱によって水分を吸い、のりのようにドロッとした状態(糊化)になると、酵素がデンプンを分解しやすい形に変化します 。この「準備」が甘さを引き出すための最初のステップです。品種によって糊化が始まる温度は異なり、一般的には70℃前後です 。
- 【変身】酵素による「糖化(とうか)」 糊化したデンプンに対し、サツマイモ自身が持つ消化酵素「β-アミラーゼ」が活発に働きかけます。この酵素がデンプンを分解し、甘み成分である「麦芽糖(マルトース)」を大量に作り出します 。このβ-アミラーゼが最も元気に働く温度帯が、65℃~80℃。つまり、この「魔法の温度帯」をいかに長く保つかが、焼き芋の甘さを決定づける最大の鍵なのです 。電子レンジのように急激に温度が上昇する方法では、この温度帯を一瞬で通り過ぎてしまうため、甘くなりにくいのです 。
- 【凝縮】水分の「濃縮(のうしゅく)」 糖化によって麦芽糖が十分に作られた後、さらに加熱を続けることで、芋の中の余分な水分が蒸発していきます。これにより、麦芽糖の濃度が高まり、あの蜜のように濃厚で凝縮された甘さが生まれるのです。
(※焼き芋が甘くなる理由は『さつまいもの甘さの秘密|「熟成」「糊化」「糖化」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
この一連の流れを理解すると、なぜ「クイックスイート」が電子レンジでも甘くなるのか、その理由も見えてきます。
クイックスイートはデンプンの糊化温度が約50℃と非常に低いため、β-アミラーゼが働き始める前からデンプンが「準備完了」の状態になります。
そのため、急速に温度が上昇する電子レンジ加熱でも、他の品種に比べて糖化のための時間を確保しやすいのです 。
また、焼き芋のもう一つの魅力である「食感」は、甘さとは少し違うメカニズムで生まれます。
その主役は、植物の細胞壁に含まれる「ペクチン」という成分です。
このペクチンは、適切な加熱によって軟化し、ねっとり、しっとりとしたなめらかな食感を生み出します。
一方で、70℃以下のような中途半端な温度で長時間加熱すると、逆に硬化してしまう性質もあります。
最高の焼き芋は、β-アミラーゼによる「糖化」と、ペクチンによる「軟化」という二つの化学変化が、絶妙なバランスで起こることによって生み出されるのです。
好みのサツマイモの選び方
最後にご自身で焼き芋を作る際にどのように好みのサツマイモを選べばよいかをご説明します。
美味しいサツマイモの見分け方
最高の焼き芋作りは、最高の素材選びから始まります。
以下のポイントは基本的にはほとんどの品種に共通するものですので、スーパーの店頭で、以下のポイントをチェックしてみてください。
- 形: 全体的にふっくらと丸みを帯びているものを選びましょう。細長いものは繊維質が多い傾向があります。
- 皮: 色が均一で鮮やか、ハリとツヤがあるものが新鮮な証拠です。
- 重さ: 手に持った時に、見た目以上にずっしりと重みを感じるものは、中身が詰まっていて水分も豊富です。
- ひげ根: ひげ根が少ない、またはひげ根の跡のへこみが浅いものの方が、筋っぽくなく食感が良い傾向にあります。
- 蜜の跡: 皮の表面や両端の切り口から、黒っぽい蜜のようなものが染み出ていることがあります。これはサツマイモに含まれるヤラピンという成分で、糖度が高い証拠です。見つけたら迷わず選びましょう。
色で選ぶポイント
サツマイモは「紅はるか」のような黄色が一般的ですが、アントシアニンを多く含んだ「ふくむらさき」や「パープルスイートロード」のような紫のものも人気があります。
好みの色の品種を選ぶのも一つの方法です。
(※紫芋に含まれるアントシアニンに関しましては『さつまいもポリフェノールのすごい力!美肌・健康効果から賢い食べ方まで完全ガイド』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
【表2:サツマイモの色の比較表】
肉色 | 代表品種 | 主要な機能性成分 | 期待される効果 |
紫色 | ふくむらさき, パープルスイートロード, アヤムラサキ | アントシアニン(ポリフェノール) | 強い抗酸化作用。目の健康維持などに。 |
橙色 | 安納芋, ハマコマチ, タマアカネ | β-カロテン | 体内でビタミンAに変換。皮膚や粘膜の健康維持に。 |
黄色 | 紅はるか, シルクスイート, 紅あずま | ビタミンC, 食物繊維 | 美肌効果や整腸作用など、基本的な栄養価が高い。 |
まとめ

今回は、焼き芋に最適なサツマイモの品種をランキング形式でご紹介しました。
甘さ重視なら紅はるかや安納芋、ホクホク感が好みなら鳴門金時や紅あずま、滑らかな食感が好みならシルクスイートなど、それぞれに特徴があります。
今回のランキングや品種の特徴を参考に、ぜひお好みのサツマイモを見つけて、美味しい焼き芋を作ってみてください。
色々な品種を試して、自分にとって最高の焼き芋を見つけるのも楽しいですね。
また、今回ご紹介した以外にも、様々な品種のサツマイモがあります。
ぜひ、近くのスーパーや八百屋、あるいはオンラインストアなどを訪れて、新しい品種を探してみてください。
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